整理できない引き出し【今年を振り返って】
北村 守通

 12月21日に高知での忘年会的な朗読ライブに出席してきて、「ああ、今年も一年が終わるんだなぁ」と、ふと思ってしまった。極めてありきたりなんですが、これまでの仕事の関係などもあって一年の終わりを感じるのが2月末だったりしたこともあって、久し振りの感覚にちょっと驚いたり。
 ベタな展開ですが、今年はワタクシにとってある意味激動の年でした。(まんだ終わってはいないんですがね)東京から高知に戻り、浦島太郎の状態でしたから。友達一からつくり直したり、仕事探したり、釣りしたり。いやいや、詩にまつわる人間関係も探したり。結果、高知に帰ってみて本当によかったなぁ、と思ってます。(でも、関東圏で知り合った大事な大事な方々達と会うことがヒジョーに難しくなったのは寂しいんですけどね。)
 高知に帰ってみて、何が一番変わったかと申しますと、『自分の時間』というものを感じられるようになったことでしょうか?正直、東京で生活していたときは『仕事+帰って寝るだけ』という生活で、休日も『寝る!』に尽きる生活でした。釣りの虫が疼いても、なかなか体が言うこときいてくれないんです(泣)関東近郊もそれぞれ個性豊かな釣り場に囲まれていたのに、これは失敗だったな、と後悔しています。
 高知に帰ってからというもの、釣りに明け暮れました、いや、明け暮れています。淡水のルアー・フライ、防波堤の投げサビキ、投げ釣り、最近はまっているのはクロダイの紀州釣り、という釣り方なんですが、これが『最初の一匹を釣りたいビギナー向け』と教本には載っておりますがまったくもって難しくてなかなかうまくいきません。自分の何が間違っているのかまだまださっぱり解っていない状況です。まぁ、ワタクシの釣り全般に言えることですが・・・水の中はなかなか見えませんから。(見えてしまう状況だと、魚達からもこちらが見える、ということでなかなか口を使ってくれなくなりますしね。)自分の釣り方が水中でどの様になっているのか?自分の狙ったポイントに魚は果たして居るのか?そういったことを推察しながら生体反応を探るのです。つまり、この推察の道順のたて方が間違っているといつまでたってもスカなわけです。(偶然がそれを助けてくれることもありますが、ワタクシのように偶然もスカに味方する場合があります。)もちろん、どんなに上手い釣り人であってもスカを喰らうことが多々あります。しかし、そうした釣り人達には『この状況でこうしたら釣れた』という比較対象となる経験があります。それをもとに次回に似た様な状況に出会っても対応の仕方が組めるのです。1という引き出しと0という引き出しを持っている人、0の引き出ししか持っていない人との差が出てきます。もちろん、何によって0の引き出しに入れざるを得なかったかが解っていれば話は別です。しかし、たいがいの場合0になる理由がわかっていないからこそ、0の引き出しがたまっていくのがほとんどなのです。この状態で一生懸命に打開しようとすればするほどドツボにはまって行くことが多々あります。負の努力の積み重ねにより悪い癖等が知らず知らずのうちに体にしみ付いていき、余計に0だけを増やしてしまうのです。
 おかげでよく日曜日の釣りの後は生まれてきてしまったことを後悔させられています。
これは自分自身の今までに見過ごしてきた様々なところに隠れているんじゃないか、とも思います。進学しかり、仕事しかり、恋愛しかり、創作活動しかり・・・。
 今、正直なかなか詩を描けなくなっている時期に入っていることもあり、ワタクシの詩作にあって1は何だったのだろう?0は何だったんだろう?と考えてしまいます。そしてその判断は一体何をもって基準とすればよいのだろう?と考えてしまいます。果たして自分の創りたいもの、創らせたいものはなんだったのか?という疑問もあります。
 自分自身の生み出した文字の数々のはずですが、そこには海面の様な境界線があって、覗き込むことができません。釣り人は孤独です。それは対人という意味ではなく、人間外生物との関係、あるいは気象や自然条件との関係にあって孤独です。そして、詩作に対するワタクシとしては文字に対して孤独です。
 1だと思って創ってみたものが、実は0かもしれません。0と思っていたものに1が含まれているかもしれません。終わりはきっとないのでしょう。一つの文字世界を終結させることは、もしかすると次の文字世界を展開させるための生贄にしなくてはならないのかもしれません。とんでもない世界に足を突っ込んでしまったものだと今更ながら後悔しています。まだ行き先も決まらず、前に進めませんが、何故だか創作意欲という足だけは上下運動を繰り返しています。困ったもんです。


散文(批評随筆小説等) 整理できない引き出し【今年を振り返って】 Copyright 北村 守通 2008-12-23 00:27:36
notebook Home