待ちびと
服部 剛

額縁に収まるその絵は 
四角い顔のあぱーとの 
二つの小窓が黒目のように 
展示のガラスの前に立つ 
私をじっと見つめます  

隙間無く 
ひしめき合って 
立ち並ぶ 
三階建てのあぱーと群 

かつて 
在りし日の詩人が愛した 
ひとりの少女が住んでいました 

危うげに傾く長い硝子の扉が 
ぎぃぎぃと風に軋む 
三階の窓から 
ちょいと 
白い首を出し 
夢のような空を仰ぐ 
ひとりの少女がおりました 

羊のような面影の 
詩人といえば 
一階の玄関脇の 
赤いぽすとに溶け合って 
凭れたまんま 

袖口から出た面長の手に 
(一つの雲の浮いている空色の封筒)を 
ぎこちなくも握ったまんま 
少女宛の恋文を 
投函できずにいたのです・・・ 

やがてすっかり夜も更けて 
四角い顔のあぱーとは 
闇に姿を消しました 

玄関の扉の上の 
ほの赤い洋燈のみが 
いつまでも 
ぽうっと 
闇に灯っています 








自由詩 待ちびと Copyright 服部 剛 2008-12-21 22:52:53
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