ヨルノテガムたちの絶望
ヨルノテガム
ヨルノテガムたちが寝静まった夜
ヨルノテガムたちの月は空を埋めつくした
明るいなぁ。そして、
苦しいなぁ。と彼らのひとりは洩らした
踊るヨルノテガムたちの首筋に風は舞い
踊っているのはワシたちの方なのだぜ
と風は調子づく
ヨルノテガムたちの夜が明ける、と言ったのは
右から三番目のヨルノテガムの口で
左から五番目も後ろから九番目も同時に口を開き
ヨルノテガムは本心を隠したがった
ヨルノテガムの涙はよだれだったし、
ヨルノテガムの遊びはヨルノごと首をすげ替え、
テガムごと胴体をくじ引きさせ
合体をはかるのであった
ヨルノテガムたちのお披露目挨拶が始まる
ひとつふたつのヨルノテガムは不満と虚無を唱え
ひとつふたつのヨルノテガムはやっと元に戻ったと
ヨルノテガムを懐かしがった
今度は縦に割ろうじゃないかとヨルノテガムのひとりは
提案し、彼らは苦笑い微笑みを浮かべたのだった
ヨルノテガムたちの朝が
ヨルノテガムたちの眠りを誘うことは自明で
夜が終り、予定が動き出す頃には彼らはもう居なかった
*
ヨルノテガムがショパンの「雨だれ」を弾いている
ヨルノテガムの雨が雨どいをつたい落ちる
ヨルノテガムたちの家の中にはヨルノテガムたちが
重なり合っていて お前は必要だ、お前は必要だと
手を繋ぎ合っている
それを見ているヨルノテガムがあるとき
そのヨルノテガムたちを胸に抱き締めると小気味よく
消え去ってしまうのだった、しかしヨルノテガムの数は
異常に繁殖している
ヨルノテガムは眠り、ヨルノテガムは鐘を鳴らし、
ヨルノテガムはヨルノテガムを喋り出し、呼吸を数え、
眼鏡を外し、地獄と極楽の地平を重ね、鬼に焼かれたり
天女に八つ裂きにされて はたまた鬼になったり
天女の羽衣を夜なべして縫いつくろい
コレを着て頑張ってくださいネ と見送ったりする
百万のヨルノテガムが一斉に走り出し、
もう百万のヨルノテガムが走りやめる
もうもう百万のヨルノテガムが穴を掘り、
追いかけられたヨルノテガムたちは同じ数だけ
ひゃぁ――と落ち込む。
その長い落下の瞬間を見つめるヨルノテガムたちの眼差しが
見ていることを見つめられていると気づくのに
死ぬ程ヨルノテガムは目を閉じて消え失せていた
*
絶望を探すヨルノテガムがいる
彼の語りを受けとるような存在がする、えっと名は、
えっと、 夜中に手紙を書くような・・
(クスクス 彼は「絶望」に浮気しているよ
(クスクスしちゃうね
(クスクスしちゃう
(殺して食べちゃえよ
(痛い目だもっと痛い目だこらしめろ
破られる彼ら、
忘られる彼ら、
頼るところを取り合った彼ら、
取り合いもしなかった彼らへ―――――
おぼえていてくれてありがとう
夜の手紙は灯りがなければ書けなかったよ、と。