ヨルノテガムたちの絶望
ヨルノテガム






ヨルノテガムたちが寝静まった夜
ヨルノテガムたちの月は空を埋めつくした
明るいなぁ。そして、
苦しいなぁ。と彼らのひとりは洩らした
踊るヨルノテガムたちの首筋に風は舞い
踊っているのはワシたちの方なのだぜ
と風は調子づく
ヨルノテガムたちの夜が明ける、と言ったのは
右から三番目のヨルノテガムの口で
左から五番目も後ろから九番目も同時に口を開き
ヨルノテガムは本心を隠したがった
ヨルノテガムの涙はよだれだったし、
ヨルノテガムの遊びはヨルノごと首をすげ替え、
テガムごと胴体をくじ引きさせ
合体をはかるのであった
ヨルノテガムたちのお披露目挨拶が始まる
ひとつふたつのヨルノテガムは不満と虚無を唱え
ひとつふたつのヨルノテガムはやっと元に戻ったと
ヨルノテガムを懐かしがった
今度は縦に割ろうじゃないかとヨルノテガムのひとりは
提案し、彼らは苦笑い微笑みを浮かべたのだった
ヨルノテガムたちの朝が
ヨルノテガムたちの眠りを誘うことは自明で
夜が終り、予定が動き出す頃には彼らはもう居なかった





ヨルノテガムがショパンの「雨だれ」を弾いている
ヨルノテガムの雨が雨どいをつたい落ちる
ヨルノテガムたちの家の中にはヨルノテガムたちが
重なり合っていて お前は必要だ、お前は必要だと
手を繋ぎ合っている
それを見ているヨルノテガムがあるとき
そのヨルノテガムたちを胸に抱き締めると小気味よく
消え去ってしまうのだった、しかしヨルノテガムの数は
異常に繁殖している
ヨルノテガムは眠り、ヨルノテガムは鐘を鳴らし、
ヨルノテガムはヨルノテガムを喋り出し、呼吸を数え、
眼鏡を外し、地獄と極楽の地平を重ね、鬼に焼かれたり
天女に八つ裂きにされて はたまた鬼になったり
天女の羽衣を夜なべして縫いつくろい
コレを着て頑張ってくださいネ と見送ったりする
百万のヨルノテガムが一斉に走り出し、
もう百万のヨルノテガムが走りやめる
もうもう百万のヨルノテガムが穴を掘り、
追いかけられたヨルノテガムたちは同じ数だけ
ひゃぁ――と落ち込む。
その長い落下の瞬間を見つめるヨルノテガムたちの眼差しが
見ていることを見つめられていると気づくのに
死ぬ程ヨルノテガムは目を閉じて消え失せていた





絶望を探すヨルノテガムがいる
彼の語りを受けとるような存在がする、えっと名は、
えっと、 夜中に手紙を書くような・・
(クスクス 彼は「絶望」に浮気しているよ
(クスクスしちゃうね
(クスクスしちゃう

(殺して食べちゃえよ
(痛い目だもっと痛い目だこらしめろ

破られる彼ら、
忘られる彼ら、
頼るところを取り合った彼ら、
取り合いもしなかった彼らへ―――――

おぼえていてくれてありがとう

夜の手紙は灯りがなければ書けなかったよ、と。














自由詩 ヨルノテガムたちの絶望 Copyright ヨルノテガム 2008-12-15 18:00:13
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