冬のカルテ
A道化
あ、
雨の夕刻は
アスファルト状の黒いノートにおいて
ひとつぶ、ひとつぶ、別々の
無数の濁点だ、
*
雨滴、
雨滴、
黒く
滲んで
広いひとつの痣として
混じり合うふりをしてゆく冬の夜にわたしたちは
何も見出せぬ眼球を夢の中へかくまうことを
おやすみなさい、という命じ合いを装って許し合う
わたしたちは、別々の、ひとつぶひとつぶだ、それなのに
混じり合う感覚を夢見る眠りへ、眠りへと
限りなく目を閉じる、閉じれば、
黒い、痣の、冬の、
夜。
ただ
その時だけ
わたしがあなたに
全身麻酔みたいに完璧に優しい、
という真相を
雨と夜と夢が
濁してくださる
*
あ、
そして朝は
カーテン状の白いノートにおいて
初めから言葉ではなく
光
きらきら
誰よりも早く眼球のことを見破りながら
その光で
ほら、きらきらと
すべてを隠滅してくださる
2008.12.13.