のび太の虚無の世界
パラソル




のび太が虚無におそわれ無気力になった
もともとそうだったが、あやとりすら
やらなくなり、好きな鼻糞もほじらなくなった。


ドラえもんは、もともと傍観主義者なので、
むしろこの状況を面白くかんさつしていたが、
のび太がジャイアンに襲われても、スネオに
巨大な資産をかさにかけた疎外をされても、
何もいわず、何もかんじず、
ただただ、やしの実のように、ぼーっとしてるのを
見て、ついにしびれを切らした。


「どらえもおぉぉん!!」
この涙と鼻水がまじったなさけない声、
それに続く、自己の能力をまったく省みない
身勝手な願望。
かれは、この声を聴くたびに、またかとうんざりすると同時に、
奇妙な優越感にひたっていた自分に気付いた。


世の中には、ここまでなさけなく
馬鹿な人間がいる・・・

欠陥品の特売ロボットにすぎない自分が、
こんなにも優越をかんじられる・・・

このバカは、
おれに救いをもとめすがっている・・・

しょうがねえ、助けてやるよ。足をなめろ。


おれは、
このバカが、鼻水をたらすことによろこびを
感じていたんだ!!!
だから、このバカが無気力になってなにも
反応しなくなったら、とても
つまらないんだ!

おれは、あの22世紀というどうしようもない
無機質の反動として、このクズ人間、のび太に
自分の安心できる洞窟をもとめたのか!?

おれの寝室、あの押し入れは、それを具現したもの
だったのか?

あそこは基本的に暗闇だ。
なにも見なくてすむ。

おれはこの低級な人間のわめく姿をみながら、
心底安心していた。
世界で一番えらいのはおれだと思えたんだ。
しかし、それは、世界でおれとのび太しかいないという
前提にしか成り立たない
ものなんだ!
せかいでおれしかいなかったら
とてもつまらないんだ!!


ドラえもんは、押し入れに逃げ込み
四次元ポケットのスペアをとりだした。
そして、空気砲を手にし、タケコプターをつけて
窓から飛び出した。

そして、無表情に空気砲を撃ちまくった。

鳩がおどろいて逃げた。
かれは鳩に空気砲を向け、つぎつぎにぶっぱなした。
鳩の内臓が地面に落ちていった。

人家の屋根に向かってつぎつぎに
タイムフロシキをおとした。

人家はつぎつぎ材料に退化していった。

ドラえもんはわらっていた。
ドラえもんはわらっていた。

ドラえもんは、のび太のいなくなった世界で
ひとりで笑っていた。

ドラえもんは、のび太のいなくなった世界で
ひとりだった。






自由詩 のび太の虚無の世界 Copyright パラソル 2008-12-07 10:54:28
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