深海
瀬田行生




この世界に疑問なんてひとつも持たなかった


そんな風に思えなくなったのいつからだろう?
全てが疑い深い光景に見えてしまって
自分でもすごく嫌になる

僕らは人の視線から逃げて逃げて逃げて
結局深海に逃げ込んで沈んだ

それでもやっぱひとりでいるのは嫌で
遥か遠い水面に人の影を探し出したりした

そして誰かが水面に優しく近づいたときだけ
顔を出して笑いあったりして
嫌なことがあれば水中から
無責任に微笑んだりしてた


感情はそこら辺にフワフワと浮かんでる
水と溶け合っているみたいに

嫌な思い出も何もかもはっきりと見なくていいから


すごく楽


でもいとおしかったあの人の面影も
見えなくて困ってる

でも僕らはいつかこの深海から抜け出せると思っていた

明日の光が僕らを優しく照らせば
優しい誰かが僕らに救いの手を差し出してくれれば


しかしながら


僕らは気づいてなかった

深海になんて沈んでなかった僕ら
僕らは初めから深海にいたんだ
この深い深い深海に


自由詩 深海 Copyright 瀬田行生 2008-12-04 23:16:45
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