予知夢
aidanico

/再生回数は三回が限度だという理論には酷く理不尽な思いをさせられたのだった音楽を聴くのさえおれは自由が赦されないのか、と言うと、澄ました顔でそうだ、と言ってのける余りに超然とした態度を崩す事無くそうした返事を口にするので、いっそ小気味よい気さえもする段々とそう思い始めていた名も知らないこの男は三十分前にこう話した昨日お前が死ぬ夢を見た、住んでいる処も声も顔も凡てその夢に出てきたのだというその後自身がこんなに聡明な夢を見るのは初めてだ、しかしそれだけに信憑性がある、そして今日会社に行くときに見掛けた私の顔を見て自分のすべき事を確信したのだと言うスーツのままの私を矢張りスーツである(記事はどこか薄っぺらさのある、発色の鈍い紺であった)(あるいはそれは黒だったものが洗いくたびれて色褪せたのかもしれない)男は駅の改札を通ろうとする私を反対側から無理矢理追い返して、自宅へと強引に案内させたのだったそこから彼はひたすら一種狂人めいた理論を展開させていったのではあるが、それと同時に、私の行為を少しずつ拘束していったのだったそれ以外何をすると言うのではないのだが、窓は開けるな、鍵をかけろ、エアコンを消せ、というのから次第にエスカレートし始め、水はそれ以上飲むな、歯を磨け(ビールで口を濯げというのが特に不可解な指示であった)、湯を沸かせ、そして湯が沸くまでその男と喋ることも無いので煙草を吸い音楽でも聞こうかとデッキのリモコンに手を出したらこれだ渋々項垂れながらタイマーをセットして煙草を消そうとすると、いやそれは吸い続けてくれ、と手で促すアルコールが回ってきたのか微かに頭がぐらっとしたのだが、たかが一杯の缶ビールで、と考えると同時にグラスを渡された手の向こうに男の眉が少し動くのが見えたのだった私は男を残し乱れたスーツを直し改札を抜け会社に行き帰ると部屋の外も中も真っ暗であった電気は点かなかった仕方なくライターで僅かな火を灯すとけたたましい轟音と共にステンレスのコンロも電球もマイルドセブンも缶ビールとそれが注がれたグラスも男の顔は思い出せずに襤褸のスーツに似合わずに細くて白い女のような指とわたしの体はばらばらになって燃えた。解体された意識とアパートの一室でゴルドベルグの第三変奏だけがカノンを止めずに繰り返されるのだったという夢で目覚めたら電気が付かなかったのでライターに手を伸ばすと


自由詩 予知夢 Copyright aidanico 2008-11-26 23:49:40
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