邂逅のひと
恋月 ぴの
買い物に出かけた初冬の街角で
あのひとの姿を見かけた
両の手のひらをパンツのポケットに入れ
開店前のパチンコ屋に並んでいた
私の姿に気付くこと無く
他愛も無い夢と引換えに大切なものを差し出した
若い男たちに入り混じり
あのひとは
渇いた壁に映る長い影だった
帰り道
小さく折ったハトロン紙を開き
名も知らぬ野草の押し花を西日にさらす
おまえだけが頼りだと
あのひとは私の耳元で何度も囁いたような
かさかさに乾ききった薄紫色の花弁は
ハトロン紙の上で僅かに震え
ふた駅も乗り越してしまった自分に気付く
慌てて降りた駅の改札を抜け
すっかりと葉を落としたポプラ並木を辿れば
準備中の札を出した侭の喫茶店
肩の触れ合う軒先で
私から語りかけたのか
それともあのひとからだったのか
あのときの雨音
降り続く霙交じりの冷たさだけが甦り