喪カデンツ
靜ト

期待して待っていた蕾はふくれて
うすい蚊が溢れ出した
すぐさま片手におととし越してった隣人の抜け殻を握りしめて
ドアをすり抜ける。

2対のスフィンクスが
下卑たジョークで笑い転げている
隣人の抜け殻はさわやかな笑顔だ。

受付では女の代わりにサワークリームが
父親の声で
「老婆、老婆」
と呻いている。
ここじゃない。ここじゃないのだ。
チケットをちぎると血が滴るのは当然だ。

2対のスフィンクスはまだ笑い転げている
泣いているのかもしれない。
今度こそ膨張した体細胞は臨界を迎え
t=eにはプラナリアとなり棘を育てる

窓口ではオイスターソースが
母親の声で
「老婆、老婆」
と呻いている。
ここかもしれない。いや、ここではないのだ。
もう一つ半券をちぎる。
噛みつかれるのは当然だ。

密集したザラメの木を抜けて
エキソンとイントロンの割合を憎み
折れかけたヒールは乳歯のようだと思い出す

これが最後だ。

テーブルでは開いた蓮の花が
「老婆、老婆」
と呻いている。
ここだ。ここなのだ。

隣人は握りすぎた手の汗でリアリティを増した。
この声は私だと気付いたが
蚊の羽音がそれを忘却させた。


自由詩 喪カデンツ Copyright 靜ト 2008-11-22 20:40:08
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