『人魚姫』
東雲 李葉

笑った声 怒った声
泣いている声 愛す声

すべてが耳に渦を巻く夜
波の静かな真白い海が
月明かりに照らされて
ぼんやり浮かぶあなたの顔が 響きが 音色が
海の底までこだまする あるいは空の頭の中で

こっちだよ こっちだよ
誘う水はどこまでも
きっと最期の時までやさしく

笑っている 怒っている
泣いている 愛している

愛されているあなたの顔を 響きも 音色も
朧の月に渦巻いて
耳は冷たい水を 記憶も 声も
難なく受け入れ眠るよに

響いて 響いて 響いて

この舟の行く先で
柔らかな声で歌うあなたへ
「もうすぐ会いにいきます」と
白い波をひときわ立たせて

月はついに夜空と混ざり
海はゆるやかに溶けながら
沈む身体を包んでいく
あなたの声と水とが渦巻いて
泡となって弾ける音が
青く満ちる頭の中
数え忘れた正しい呼吸が
永く 永く 眠るよに


自由詩 『人魚姫』 Copyright 東雲 李葉 2008-11-18 16:38:40
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