TOKYO
たもつ



何はともあれ
やっとのことでお触りバーにたどり着いた
とにかくここまでの道のりが大変だったのだ
目覚し時計にカミキリムシが巣をつくって
がちゃがちゃ長針と短針を適当に動かすものだから
何時におきるべきかわからなくなるし
朝食だってそうだ
トーストとバターの順番が逆じゃないか、と
あとミルク、とか五月雨式にそんな感じで
困ったことに、「過呼吸症候群の靴を救え」
と書かれたプラカードを持った人たちが家の前でデモ行進をしていて
うちは靴屋じゃない!
と怒鳴ると、
アメフラシの汁!
そうシュプレヒコールを浴びせられる
毎日触りたいわけじゃないんです!
という言葉で威嚇し、峰打ちで中央突破
通りかかったタクシーに乗り込み
今日は朝から犬を三匹見たよ、って
口癖のように繰り返す運転手に場所を教えるために
地図を取り出せばそれは天気図にそっくりで
高気圧の上から三本目の等圧線、海を見ながら右に
などと説明しなければならず、それでもようやく到着したのだ
ついでに言うと
お触りバーは雑居ビルの二階にあって
ダッシュ、一段抜かしで階段を駆け上がる途中
彼女に四回もさよならのメールを送るはめになった
おかげで足をすべらせ急降下、頭を強打し
耳の穴から何かが出できたぞ
ドンマイ、ドンマイ
そんなわけで何はともあれ、お触りだ
暗闇の中
触る、とにかく触る
地番のない一点から別の一点へと指を滑らせていく
伝わってくる感触が自分自身のようだ
触る
涙が出てくる
触りたかったのだ
本当に触りたいものはいつも触れないものばかりなのに
そんなこと知っていたはずなのに
TOKYO、TOKYO、何度か呪文のように唱えると
やっと安心することができた
目覚し時計にいたのはセミだったかもしれない
そんなふうに思えて
余計に涙が出てきた






自由詩 TOKYO Copyright たもつ 2004-08-06 08:32:45
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