明星
根岸 薫

あかるくなった
校庭の
真ん中で
ともは
膝をむきだしにして
そのあかくなったところに
悲しみをまぶして
いました

夢ではない

山に登り
芯の太さが、花が
格調高く
ひらいた。
高山病の人については
ほぼ自動的にもだえて
のち
便りが途絶えた

その二時間前
わたしは
暗い洋間で
半時ほど続けて
単位を忘れていた。
いっぷんごとに
ひとりずつきえた。

「だから
言ったろう、
おまえにわたしを
差し込むたびに
夜になるのだと。」
隣の人を
気の毒におもい
且つ
知識のある場合に限り
くちびるであいする
ひとりでもあいする
紙くずを拾って。

 【補足】
  (実を言うと
   自分の祖母が
   どこかの公国の大使であったと
   いう話は
   嘘であった
   今
   彼女はとおくで生きており
   おそらく ひとり
   つぶやきを口に運んでいるだろう
   日がな一日地球儀をまわして
   若い時分のおもいでの
   キエフ の 地に
   朝をもたらしている
   うつくしくかざり、
   くちもと そうだ
   一日に
   なんべんもの
   朝を
   かれらに呈する)

夕暮れ
燃える空の下
岐阜の妹が
明星を見上げて
紙くずを拾っている。



自由詩 明星 Copyright 根岸 薫 2008-11-14 16:03:39
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