有袋
伊月りさ

ぶら下がっているわたし
の、創立八十年
の、生後十一年
の、柔軟を奮って弾丸になり
この袋を突き破るのは
口のゆるめ方がせこせこしているので

権力は
狡猾なのではなく
短絡的なので
コンクリートの衝立を却下した
わたしは
繊細なのではなく
狡猾なので
ここに放られている
不安定な足元と
息に煽られる境目と
せこせこしている口の
ビニールの袋
始発を捕らえ
交差点に被さり
街灯を吐き出して
わたしの
ポケットに戻っていく
わたしを幽閉して
金魚のように殺していくのだろう

爪のない指先でつくられた穴の向こうに
小さいきみがキャンバスに描く
ビニール越しの街
いやらしい
偽物の風を
きみのゆるみに流してしまうわたしは
せこせこしている
わたしはここに
ひとりで収まる
数億の袋をぶら下げた生物が
海をじゃぶじゃぶと闊歩している
気まぐれに投げ出されないように
快適な歌声を漏らすように
口のゆるめ方がせこせこしている
これを熔かせ、太陽

たくさんの
ここにひとりで
ぶら下がっている
わたしは揉みしだかれて
袋は色水で満たされる



(創書日和 霜月「袋」)


自由詩 有袋 Copyright 伊月りさ 2008-11-13 13:39:50
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