( 無題 ) 
服部 剛

君がアルバイトで 
会えなかった日 

自分勝手な寂しさに 
俯きそうになった僕は 

こころに 
一つの山を 
思い描いた 

雲に覆われ雨降る夜も 
雲が流れて日の射す朝も 
山は一つの山であり 
僕は一人の僕であり 

君がアルバイトで 
会えなかった日 

午前は入院中の祖母を 
見舞いに行き 
海の見える病室からトイレまで 
皺くちゃの手を取って二人三脚 

午後は部屋のカーテンを閉め切って 
小さい映画館になった我家で 
ウイスキーを入れたおちょこを手にほろ酔いで 
モノクロの場面にしんみりと映画鑑賞 

そのうちすっかり夜も更けて 
近所の買い物から帰った初老の母は台所で 
豚の角煮をぐずぐず煮込む 

君と会えないまま過ごした 
今日という日の楽しみは 
密かな念力で 
棚からぼた餅が落ちる時まで 
こころをじっと山にして 
もうちょっと待ってみようかな 

バイトで疲れて帰る
夜道の君が手にする携帯の 
画面が ぱっ と明るくなるような 
( おつかれさん )の言葉を添えて 
今夜も僕はメールの「送信」ボタンを 
親指で押す 





自由詩 ( 無題 )  Copyright 服部 剛 2008-11-09 18:40:09
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