◆出逢わなければ
千波 一也



かなしみと出逢わなければいたみなど 
ふわり、するり、と流れてゆくのに


よろこびと出逢わなければ涙など流れなかった
ぱさぱさとして




いつわりへ戻りはせずにここにいる
まぼろしはもうよみがえらない


ほんとうを疑うためにここにいる
むなしきものを固くいだいて




雨のなか星をもとめてひとの手は恥ずかしそうにあいさつをする


星のした船を砕いてひとの目はあしたをさがす、きのうのうえで


船のそこ砂をねむらせひとの背はゆめのかたちとなおはぐれゆく




あの海と出逢わなければつばさたち、孤独をめぐる綿ごみだった


あの空と出逢わなければさかなたち、言葉をにげる道化師だった




つめたさと出逢わなければ
にくしみもうらぎりごとも火であったのに


ぬくもりと出逢わなければ
やさしさの陰も日向も知らずにいたのに






わたしたち、出逢わなければどこまでも
わたしたち、ではいられないのに






短歌 ◆出逢わなければ Copyright 千波 一也 2008-11-03 22:48:23
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【定型のあそび】