昆虫採集の虫みたいだ
明楽

美術館とかで
ガラスケースに入れられたり
「触らないで下さい」って
貼り紙の隣に置かれちゃってるアイツらさ
ナイフにフォーク
スプーンにお皿エトセトラ エトセトラ
一体そんなところで何やってんだ
ほんとは食卓を充実させたり
家族の笑い声に包まれていたり
そんな風に過ごすために生まれてきたんだろうによ

何でこんなことになっちゃってんの?
きれいに磨かれて大切にされてるのに
長年続く戸惑いで曇りと陰りが見え隠れしているね
何でそんなことになっちゃってんの?
こっちが聞きたいよ
もう手垢が付かないように
手袋はめた手でしか触ってもらえないんだろうね
フォークが食べ物と出会うことはないし
水差しが満たされることもない
椅子には誰も座ったりなんか絶対しないし
蜀台に火が灯されるなんてあり得ない馬鹿げた話だ

だけど在り続けるためだけに
存在しなきゃならないアイツら
壊れないことばかりがしあわせだとは思えない

哀しいな

殺されて標本にされる昆虫よりも
生きているのに生かされていないアイツらの方が
ずっとずっと 哀しくて
見てらんないよ


自由詩 昆虫採集の虫みたいだ Copyright 明楽 2008-11-01 23:25:20
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