アイデンティティ
小川 葉

 
日陰に咲く花の
黒々と生えそろう髪とは対照的に
透けるように肌の白い
女を都会で見かけた

窓越しに
ハンバーガーを食べ
南中する真昼の太陽から逃れ
安堵したように
煙草を斜め上に吐く

アクセントに気を使っても
ふるまいをそれらしくしたつもりでも
変えらないものは
変えられない

知らない土地の同僚と
慣れない言葉で話してると
もっと伝えたい
気持ちやニュアンスが胸のあたりで
渦巻状になって
土中ふかく張りめぐらされてる
根をすべて掘り起こしたい
気持ちになる

窓越しに吐いた煙が
知らない空に消えていった
そうしたかったわけでもないのに

昼休みが終わる
日陰から日なたへ戻る
眩しそうにうつむく
今は都会の花になってしまった
女はエクセルの表の中に
アイデンティティを
見つけることができるだろうか
 


自由詩 アイデンティティ Copyright 小川 葉 2008-10-26 23:14:47
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