あの穴の中を覗いた
猫のひたい撫でるたま子


あの穴の中を覗いた

そこに所定の置石があったなら私は私の宝石を置かないし

誰もいない部屋の椅子に座ったところで5分も持たない

天井が高い場所、椅子に座った数十秒

天窓を見上げて

一言の声をあげて

しんとした空間を乱した

誰にも見られていない

意識が固まる16℃

誰もこない

押し出された記憶容量から

感情が薄く延びてミルフィーユの層を作る

切れた断面から零れ落ちるものがある

それを親指の爪に乗せて舐めたら

分からなくなってしまった私の世界

背中を反らせて、うなだれて徐々になくなってゆく或る私が

背中に手をかざす

これでいいのかと


自由詩 あの穴の中を覗いた Copyright 猫のひたい撫でるたま子 2008-10-26 21:52:46
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