わたしが蛾
ふもと 鈴

蛾を供えにいく/
かつての田んぼを新古書店にかえてしまったため
記憶のモザイクをひっぺはがしに

やわらかい胴体を
すぐにでもつぶしてしまいそうな
半切れの胴体を
モザイクには耐え難く
日常そのまま突き落とす

転がった
アスファルトと胴体は
叩きつけて、
粉から火葬をはじめにゆく

用済みの形容詞が嘘くさい
かつてはそこにあったのだ
(派手な自意識が蛾の醜態を濁している)

高次とは、よく言ったものである
アウフヘーベンをガン鳴りのロックンロールにのせて
田んぼの上
レクイエムと、浮遊する

さして気にしないはずが
全身すみずみずぶ濡れになって
「アタマ」でも「カラダ」でもないわたしの
心肺停止は明らかだ

(夕方には青くなる空気/かつてのわたしが呼びにいく)

ふれるたび ぬるぬるとして
蒸して暑いそのままを
不可分の悪さに おとしめる

(醜さにふくらむ自意識は 思い出のしっぽもぬぐえない
 目のうち、太陽ふたつも落とせない)


「わたしには、わたしには」

そうだ/ほほえみ
憎むべき 夏に生まれた
ほほえみがあった

(子供の頃 住んでいた袋小路に追いやった
 明日から盗んだ虫けらに似た)


  ―個体から抜け出した 言葉を地獄に突き落とし
   思い出、しっぽをちょん切った






自由詩 わたしが蛾 Copyright ふもと 鈴 2008-10-17 03:05:13
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