都市型仙人
HTNYSHR

その中年男性は、まだ少し油っぽさを残した額を光らせながら
街の暗く入り組んだ路地の突き当たりの二階に居た
秘密に仕立てられた魅惑的な部屋
彼は都市型仙人と呼ばれていることを知らない
迷路は迷いだして始まるから、そこに入り口は無く
出口をくぐった気分だけが迷路を思い出させる
その存在が常に疑われるのは、生きる感覚への懐疑に似ている
出口だけがその存在を僅かに仄めかすだけ
彼は多言を費やし仄めかす

さて、仙人の発見は或るロマンの発見を可能にした
それは醒めない夢の中で場面転換が突然起こるような
明日の朝には視力が失われていると云った類の妄想
曰く「コンクリートの間に咲く黄色い花をつけた雑草に宿る詩」の発見を

整然と散らかったまま真ん中だけがスペースを維持している部屋の
壁一面に並べられた酒瓶に溜まった埃を払いながら
不揃いなグラスに注ぐ手は少し震えていた
自白剤入りのその酒を飲みながら、男はいつも独り言の中に眠る
埃を被ったシタールの弦は何本か抜けていても
帽子を掛けておくのには都合が良かった
その横のビデオデッキの上にはサングラスが置いてある
男は何も語らないが、部屋はまるっきり正直だ

仙人は女を脱がす
仙人は男も脱がす
ボクサーパンツの妙に似合う細い足で
分解された自転車のペダルを踏んで歩く
彼ら仙人の詩には乱杭歯のような趣がある
全国に潜伏する危険な男たち
すれ違いざまに匂う加齢臭
油の抜けきらない身体で、今日も青白き精神を渉猟している


自由詩 都市型仙人 Copyright HTNYSHR 2008-10-16 21:45:15
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