色彩
aidanico

「ああ私達もう終わりね」
そう移ろう木々が囁いていた
人生の挽歌を唄いながら
僕らの終焉を見送る様に

木枯らしのもたらす冷たさが
君の手を凍えさせているのに
もう僕は君の手を握る術を知らない
乞うても季節は留まってはくれない

ジャケットの襟を立てて
寒そうに首をすくめて
それでも足元を攫う風に
抗うことは出来ない

「こんな季節になったんだね」
流れる小川に逆らわないように慎重に
口にした言葉は心なしか
あなたの瞳を滲ませている

彩度の落ちた公園のキャンバスは
鮮やかな色を乗せることを赦さない
それが喩え黒であっても
それが喩え赤であっても

トレンチコートのボタンを閉めて
顔を隠す様に髪に手を遣り
それでも何か言葉が紡がれるのを
待っていても仕方が無いのに

ガサリガサリと音を立てる落ち葉
ウールコートを纏った老夫婦
小さな子を乗せた乳母車を押す母親
剥げたペンキが景色に溶けるベンチ

彩度の落ちた公園のキャンバスは
鮮やかな色を乗せることを赦さない
それが喩え黒であっても
それが喩え赤であっても

枯れかけた名も知らない花の夏の白さを思う
濁った水には出会いよりも別れが
似合いだよと仕事を辞めた噴水が語りかけても
何故か僕らは一言も喋ろうとしない

それが喩え「然様なら」であっても
それが喩え「然様なら」であっても


自由詩 色彩 Copyright aidanico 2008-10-16 21:33:02
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