降り来る言葉 XXXIX
木立 悟



降るみどり 降るみどり
天の曲線
鏡面の黄泉
しずくをすぎる
たどりつかない重なりの
降るみどり 降るみどり


人はとどまり
音は昇る
響きは何を重ねたいのか
感じなくとも
常に常に降る痛み


眠り 狩り 悔い 目覚める
既に既にひび割れたもの
砂をまぶされ なお
そのままにひらく
ただの一度も
何ものにも
命じられることなく


人はにじみ立ち
蜘蛛は淡く澄み
知ることなく知り
朝を得る
どこまでもはかなくおぼろげな手を
ただひとこと朝と呼ぶなら


燃しても燃しても煉瓦であるもの
自らに爪をたて
すべり落ちまいとあらがいながら
底にあるまばゆさ
光ではないまばゆさを見つめる


血に血を描く迷いのなかで
夜は夜へ笑みつづけている
ひしゃげる指の痛みのなかで
まるで指など無いかのように
つづくものなど無いかのように


たどりつけない近くを歩み
くりかえす日の呪いを願い
願いを呪い 途切れては請い
遠くをなぞるかがやきを視る
音より遅い外殻を視る


指と頭をつなげる道に
蝋はゆうるりと流れている
燃えつづけながら燃え尽きながら
ふいに終わるものを名づけている
ひとりのふりが上手いものらを
さげすむ強ささえ持てずに


星座
したたるもの
応えつづける洞
霧と水の
接する空
紙と鉛を
失くした冬


いつまでも
色のない煙に導かれていた
月はいつも
未分化のまま
何も持たないものの名を
伝えはじめた


夜は夜を虹にめくり
肉を肉として見つめひらく
空の発芽
空の亀裂
ふちの色をまだ
定められずに


明らかに手に余る満ち欠けを
誰の手にも託すことなく
夜の窓はまぶたにあふれ
ふるえしたたり
ふるえしたたる


影がかわき
土に焼きつき 道になる
枝の上の声 忘れられるまま
葉を進む虫
雨を呼ぶ符
くちびるにくちびるに
ひもとかれるまま


皮膚のはざまに稲妻はあつまり
はじかれながら在りながら
激しく河口をかきまぜている
蝋を引きずる足首で
砂を歩むものたちの
背の鏡へと降るみどり




















自由詩 降り来る言葉 XXXIX Copyright 木立 悟 2008-10-16 18:14:46
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