生きるを切り取る
木屋 亞万

地下にある本屋
立ち読みした雑誌
一枚の写真
そっと感性の膜を開いて
アフリカの荒野を
胸に差し入れてくれた

ピンクのフラミンゴ
湖を染めている
見たことのない風景
フラミンゴの大きさも
体温も羽ばたく音も
知らない、わからない
わからないけれど

写真を入り口に
アフリカが、広がった
残念ながら私の中にだけ
心の奥にある小さな
本当に小さなトンネルを
抜けたら広がる、私の
世界はアフリカになった

今までに
風景の迫力、緊張感を
枠組みに詰め込もうと
したことがある人なら
わかるかもしれない
目の前の生きた風景を
まだ見たことのない人に
届けることの難しさ

鉛筆とキャンバスを、
一眼レフカメラを、
ボールペンと原稿用紙を
持って構想を探し歩いた
まだ青かった頃の苦しみ
自分の感性が弱く、
信じるのが照れ臭かった

それなのに今
あきらめと開き直りに
深く浸るようになって
癒着していた心の膜が
あっさりとほぐれた
きっかけは桃色の写真

帰り道、雨上がりの夜道
昼間は雨と曇り空の
トーンに合わせ
鬱々としていた町が
きらきらと緊張感を
取り戻している

藍色の夜空と灰色の雲が
斑に張り詰めて、月が
白く、雲を押し開き
夜空に穴を開ける
張り出したビルや屋根や
隙間だらけの樹木
橙の街灯、人の光る窓
水溜まりに散る銀粉

こんなにも立体的で、
洗練された世界に
私は住んでいたのかと
今更ながらに思う
きっかけは一枚の
写真だった、
この詩よ
誰かのきっかけに、なれ


自由詩 生きるを切り取る Copyright 木屋 亞万 2008-10-15 02:02:35
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象徴は雨