夜の歌
渡邉建志

  小さな背伸びをしたことがあるか。憧れへ向かって、届かない手をもう
一息伸ばしたことがあるか。


        よせてはかえし、かえしてはよせる、くりかえす吐
息が音列になる。前傾姿勢で弾いていて、ふと顔を上げる瞬間、ひとすじの
光。


届かない場所に手を伸ばしたことがあるか。水底から遠い光を、つかもうと
して。伸ばせないで恍惚に浸る。胸にあふれるまで、伸ばせないで。甘い球
状が胸の上を転がって、いく。あなたはわたし、まどり、つ。


          夜だから、月を見よう。甘さに手を伸ばそう。


自由詩 夜の歌 Copyright 渡邉建志 2008-10-14 07:56:17
notebook Home 戻る