昭和の電車 
服部 剛

渋谷駅前広場に置かれた 
緑のレトロ電車に入り腰を下ろせば 
クッションみたいな長椅子は 
日頃の腰の疲れを
吸い取るように暖かい 

走ることの無いこの車両に 
集まる老若男女は 
不思議な童心に包まれながら 
嬉しそうに言葉を交わす  

壁に貼られた白黒写真の前に佇む人は 
昔の渋谷の村を流れた 
「春の小川」に思いを馳せる 

2008年の渋谷のハチ公前は
数えきれないほどの
茶色い髪の女の子達や 
眉毛を剃った男の子達に囲まれ 

停車したまま動かない 
レトロ電車に入れば 
不思議な昭和の時間が
緩やかに流れている 

文庫本を開いている僕の隣に 
「よっこらしょっ」と 
白髪のお婆さんが腰を下ろした 

ベビーカーを押しながら 
若い夫婦が入って来た 

目尻を下げたお婆さんが 
猫背のまんま覗きこむ  
ベビーカーの中から 
幼子の歓ぶ声が車内に響いて 
乗客みんなが振り向いた 





自由詩 昭和の電車  Copyright 服部 剛 2008-10-13 19:29:10
notebook Home 戻る  過去 未来