犬が走って
たりぽん(大理 奔)

散歩の途中で犬が逃げた
工事車両の大きな音に
驚いて走っていった

奴はリードを付けたまま
なのに
公園の草むらで
見失う

さがす、捜し回る
いつもの散歩道
立ち寄る電信柱
真夏のような汗をながしながら
視線の先を見失う

  まだ生まれてから半年の
  ちっぽけな子犬だというのに
  野良で生きていけるほど
  好景気な世の中じゃない

ビラを作ろうと部屋に戻る
「子犬捜しています」と書く
抜け殻のゲージと
まだ強く残る体臭
引き受けた命だから
引き受けた命だからか
耳の奥で鳴き声

  文字は残すだけだ
  いい訳のように
  捜したといういいわけを
  自分に晒すだけで

飛び出す、暗くなった路上へ
私の声は
暗闇に
失ってはいけない名前
河川敷の草むら
吠える、ほえる
私の声は
犬になる
私の目は奴になる
私の耳は奴になる
ひとの通れない地図を
ひとには見えない場所を
思い描きながら

待っているだろう
私の文字ではなく声を
言葉ではなく声を
声よりも強いもの
夜通し吠え続けても
のどが切れても

吠えるのだ
文字よりも前に
生まれ来るもののために
たったいま
伝えるために






自由詩 犬が走って Copyright たりぽん(大理 奔) 2008-10-12 23:26:42
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