ループ
十重山ハルノ
ある星では、
ある年、
大変な寒い夏がやってきて、
食べ物がほとんど採れませんでした。
ある者は、木の根をかじり、
ある者は、自分の食べ物を
隣の人に少し分けてあげました。
またある者は、人の食べ物を
横取りしてしまいました。
ある日ひとりの男が言いました。
「この星を半分こして、
良い人間と悪い人間を
別々に分けてしまおう」
それはいい、それはいい、と人々は声を上げました。
「そうすれば、良い人間は安らかに暮らせるね」
「良い人間と悪い人間は、一体どのように分けるの?」
ひとりの女が言いました。
「星の賢者に良い人間と悪い人間を決めてもらおう」
別の男が言いました。
それがいい、それがいい、と人々は声を上げました。
※
星の賢者は言いました
「それならもっと良い方法がある。
みんな、一列に並んでください。
そして、星をぐるりと一周して
みんなでひとつの輪になってください」
星の賢者が言うのならばと、
みんな一列に並んで輪になりました。
「それでは、
みなさんの前にいる人が
良い人間か悪い人間か決めてください。
そうして、ぐるりと一周してください。
ただし、私が始めの一人となりましょう」
星の賢者はそう言って、列の中に入りました。
星の賢者は前にいた小さな女の子に言いました。
「昨日はきれいなマーガレットをありがとう。
君はとても良い子だね」
女の子はマーガレットのように微笑みました。
小さな女の子は前にいた痩せたおじいさんに言いました。
「いつも花の名前を教えてくれてありがとう。
あなたはとても良い人ね」
おじいさんはゆっくりと頷き涙を流しました。
痩せたおじいさんは前にいた屈強な男に言いました。
「いつぞやは、屋根を直してくれてありがとう。
あんたは本当に良い人じゃ」
男は恥ずかしそうに笑いました。
そうして星を一周すると、
最後は腰の曲がったおばあさんが
星の賢者に言いました。
「小さな女の子を褒めてくれてありがとう。
あなたは全てをわかっていたのね」
賢者はおばあさんの手をとり言いました。
「たったのひとりも悪い人間はいませんでした。
それは、わたしたち全員が決めたことです」
それから、
あいかわらず大変寒い日が続き
食べ物はなかなか採れませんでしたが、
人々は食べ物を少しずつ少しずつ分け合って、
人々はなんだか温かい気持ちになりました。
星を半分こすることなく
まん丸いままで
人々は暮らし続けました。
※ ループ
星の賢者は言いました
「それならもっと良い方法がある。
みんな、一列に並んでください。
そして、星をぐるりと一周して
みんなでひとつの輪になってください」
星の賢者が言うのならばと、
みんな一列に並んで輪になりました。
「それでは、
みなさんの前にいる人が
良い人間か悪い人間か決めてください。
そうして、ぐるりと一周してください。
ただし、私が始めの一人となりましょう」
星の賢者はそう言って、列の中に入りました。
星の賢者は前にいた小さな女の子に言いました。
「昨日、広場の花壇のマーガレットを勝手に抜いたのは君だね。
君はとても悪い子だ」
女の子はしおれたマーガレットのようにうつむいてしまいました。
小さな女の子は前にいた痩せたおじいさんに言いました。
「いつも働かないで食べ物は恵んでもらってばかり。
あなたはとても悪い人ね」
おじいさんは狼狽しうなだれて涙を流しました。
痩せたおじいさんは前にいた屈強な男に言いました。
「わしの家から食べ物を奪い取ったことは決して忘れない。
あんたは本当に悪い奴じゃ」
男はおじいさんを見下すように鼻で笑いました。
そうして星を一周すると、
最後は腰の曲がったおばあさんが
星の賢者に言いました。
「なぜ、小さい女の子にあんなことを言ったの?
あなたは何もわかっていない悪い人なのね」
賢者はおばあさんに背を向け言いました。
「たったのひとりも良い人間はいませんでした。
ただそれは、わたしたち全員が決めたことなのです」
それから、
あいかわらず大変寒い日が続き
食べ物はなかなか採れませんでしたので、
自分の食べ物を誰にも取られないように
ある者は家に剣先のついた柵をめぐらせ、
ある者は猟銃を肌身離さず持っていました。
またある者は、隣の人を
なたで殺して奪ってしまいました。
人々はなんだか好戦的な気持ちになりました。
星を半分こすることなく
まん丸いままで
人々は争い続けました。