赤い靴の少女
星月冬灯


 パパが死んだ朝

 私は友達と映画に行きました

 王子さまとお姫さまが

 恋をするロマンチックなお話

 胸をときめかせて

 映像に魅入られて

 パパのこと忘れていました


 ママが死んだ夜

 私は彼とドライブに行きました

 夏の夜空に輝く星の瞬き

 彼の胸にもたれかかって

 甘い時間(とき)を過ごして

 ママのこと忘れていました


 そんな私を不憫な

 目で見たおじさんが

 私にプレゼントをくれました


 綺麗な赤い靴


 私はすぐに夢中になって

 周りの人たちが止めるのも聞かず

 赤い靴を履いて喜びました


 靴は私の心を代弁するかのように

 大いにはしゃぎまわり

 華麗なステップを踏みながら

 
 街を駆け抜け

 森を駆け抜け

 山を駆け抜け

 ひたすらに踊り続けました


 私はもはや自分の

 心も忘れ果て

 赤い靴に支配され

 ただ動かされているだけ


 人々が物陰から

 私のことを指を差しながら

 笑っています


 涙がたくさん出てきて

 止まりません


 私は心から悔いました

 パパとママに


 私は心から祈りました

 パパとママに


 すると足が止まりました


 私は懺悔することによって

 ようやく踊らされるという

 地獄の試練から

 逃れることができました


 でも少し遅すぎました


 足が止まると同時に

 私の寿命(いのち)もここまでのようです


 でも私はほっとしました


 やっとこれで

 踊らなくて済む


 やっとこれで

 パパとママに直接

 謝ることができる


 眠るように逝った私を

 ある心優しい一人の少女が

 綺麗な毛布を掛けてくれました


自由詩 赤い靴の少女 Copyright 星月冬灯 2008-10-12 15:35:58
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