連作『人のいる風景』
角田寿星


 歌声

【神々】は自然のために歌う
【神々】は人間が嫌いだ
が 自然は好きである
【神々】は自然のために歌う


 雨

赤茶けた
ぬくもりの大地に
無言の歓声を喚げる

風の奏でるピアニッシモと共に
海の匂いを残して 静かに
消えてゆく


 虹

白いカーテンをあげた昼下がりの空に
ぼんやりと虹が架かっていた
霧に濡れた髪
をした少年は尻尾につかまり
大急ぎで向こう岸まで飛んでいった
晴れ間のあちこちを伝い歩いて


 時計

まるで速乾性のインクのように
都会は私の涙を拭きとる
モッキング・バードヒル工場の歯車が
一回転するたび 駅前の花時計は
死にゆく一片を迎え続ける


 都市

都市よ お前は
白いロッキングチェアに顔をうずめて
遠い昔をおもい続けよ

河がお前を抱くようにして流れず


 波

海底(スリッド)の匣から生まれた
波はただ一途に岸へ進む
ペルセウスがアンドロメダーを救った
時に岩場に打ち寄せた
波もまた一途に進む
同じように
ちがうように
うねりながら



自由詩 連作『人のいる風景』 Copyright 角田寿星 2008-10-08 22:36:30
notebook Home 戻る