斜路
木屋 亞万

僕は知っている
通学路の途中にある花坂斜路の下には
恐竜の化石が埋まっているってこと
それをいつか僕が掘り起こすのだ

春には桜が咲いて
夏には向日葵が咲いて
秋には金木犀が咲いて
冬には椿が咲く、花坂斜路
斜路の脇に住むおばあさんが毎日花の手入れをしていて
他にも色んな花々が植木鉢から地面からたくさん咲き零れている
おばあさんは木々の一つひとつに名前を書いた札をかけ
札のかからぬような小さな草花には近くの土に名札を刺していた

一度うちのクラスの馬鹿が勝手に
おばあさんの彼岸花を折ったことがある
別に構わないよ、持ってお行きとおばあさんがやさしく叫んだので
馬鹿は調子に乗ってその花を踏みつけた
あの子は彼岸花を何も知らないんだねぇとおばあさんは呟いた

その夜、僕は夢を見た
たくさんの彼岸花に埋め尽くされた花坂斜路
いつもなら季節的にまだ花をつけてない木々や
植木鉢、花壇があるところまで赤い花
踏みつけられた彼岸花の死骸を取り囲むように集まっていた
踏まれてひしゃげた彼岸花だけが白い

不意にその下から恐竜が現れた
光を蓄えたように白い骨の姿だった
ティラノサウルスの骨だと思う
周りを橙や朱に近い赤色の炎がいくつも飛んでいた
火の玉というやつだと思う
骨のように白く光っている狐に連れられて
例の馬鹿がやってきた
馬鹿だから化かされているのだと思う

恐竜の骨の目がちらりとこちらを見た
おばあさんによろしく言っといてちょ
と言われた気がした
狐も何だか半笑いで誘導していた
線の細い美しい横顔だった
案外にいい人たちだと思った矢先
僕は地獄を見た
火の海、血の雨、針のような歯の並ぶ口
悲鳴をあげて逃げ回る馬鹿

ふっと狐さんが隣に来て
おばあさんが悲しむからさ
君はこれからあの馬鹿が何かしそうになったら止めるんだよ
と僕に言った
あと、これはできればなんだけど
おばあさんが君に花をあげたときは
うれしそうに受け取ってあげて欲しい
家でコップにでも入れて机に飾っておけばいいからね
僕は声が出せなかったので大きく頷いた

恐竜さん達は一通りあいつを脅かし終えると
花坂斜路の土の中へ戻っていった
君が大人になったらオイラを掘り返してちょ
と言われた気がした
僕はやはり大きく頷いた

次の日からあいつは借りてきた猫のように大人しくなった
また調子に乗ってあいつが馬鹿になったら
その時は僕が止めてやる
おばあさんを悲しませない、むしろ喜ばせる
それが花坂斜路の番人と僕が交わした約束だから

今日もおはようございますとおばあさんに挨拶をする
おばあさんはいつも僕の表情をじっと観察したあと
少し微笑むようにして
おはよう、今日も学校がんばってちょ
と僕に言ってくれるのだ


自由詩 斜路 Copyright 木屋 亞万 2008-10-08 00:53:37
notebook Home 戻る  過去 未来