東京タワー
小川 葉

 
あたしが
死について考えてるうちは
死んでないから

ぼくが詩を書き終えるまで
思ってる
誰かが

そのことを
忘れたふりして
思い出した
ただそれだけの作業のような
気がして

あたしは
どんなぼくであったか
どんな他人でありえたのか

新幹線の
車窓にあふれる
東京の屋根の
どの高さよりも速く
あたしをぼくへ
導く
終点へ

まもなく着く
考えることをやめて
荷物をまとめて
降りるしかない
その場所へ

誰の手を
借りることなく
詩は書き終えられて
死はいつかの
懐かしい風の中に生きる

ぼくは今
浜松町を降りて
東京タワーを見上げてる
 


自由詩 東京タワー Copyright 小川 葉 2008-10-06 22:29:41
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