におい

小さな頃の砂場の匂いを覚えてる

太陽と土と水と消毒液と、

子供の手のひらの匂い

如雨露の水をさぶさぶとそそいで

川ができた 虹ができた

おやつの時間だから

でも、おしまい



小さな頃の教室の匂いを覚えてる

哀しみとコッペパンと甘さと雑巾と

雨上がりの夕焼けの匂い

突っ伏して、しょっぱい机

一人で行くよ 一人は厭だよ

おしまいの時間だから

もう、さようなら



小さな頃に見た夢の匂いを覚えてる

追いかけ鬼とおしっことマカロンと母さんと

タオルケットの汗の匂い

あふれてとまらない洪水の記憶

さかなになって とりになって

逃げてく捕まる

死んじゃう おしまい



小さくない私が、小さい私の匂いを覚えてる

夢で見た洪水の匂い

砂場の虹の匂い

机にしみ込んだ涙の匂い

混沌として 大きくて 小さい 匂い






せかいは 思いのほか小さくて

思いのほか 大きかったよ

深呼吸する 覚えてる
 
あの、匂い




自由詩 におい Copyright  2008-10-03 22:37:31
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