小指
セルフレーム


小指の腹を、刺し子針が通り過ぎた。

私が絡ませた黒い糸をほどいていた貴方が、
視線を、
私の小指におとした。

流れ出る鮮血が、
小指の先の血管にまで巡って、
そのあと、
真っ白だった生地に堕ちた。

貴方は笑って、
また手元に視線を戻した。


簡単にはホドケナイ黒い糸。

私が絡ませた黒い糸。

普段、フルートのキーをぎこちなく抑える両手が、
酷く繊細で器用に見えて、

少し

悲しくなった。


私の椅子に座った貴方が、
今、
心のどこかで私のことを嫌がっていないか、
心配になる。


防音の壁に、友達の笑い声が響いた。

黒い糸はほどけないまま。
私の夢は醒めぬまま。
綺麗な指は動かしたまま。

小指は、
血が止まった。


後から覆い被さった血のカタマリが、

私と貴方の間にも、

存在しているのだろうと、


秋、最初の金曜日、

そう

思ってしまっていた。



自由詩 小指 Copyright セルフレーム 2008-10-03 22:22:05
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