「秋の訪れ」
広川 孝治

どこまでも遠い空
小さくかすむ手の届かない雲
冷たさをはらんだ風
刈り取られた切り口をさらす稲の列に舞うトンボ
ただ黙って揺れるコスモス

どこまでも遠い山並み
かすむ道の行く末
寒さを予感させる風
どこにいるともしれないつれあいを求め歌うコオロギ
ただ黙って散る木の葉

どこまでも遠いあなた
小さくかすむ暮らしの記憶
冷たさをはらんだ言葉
見るたび胸をえぐられる二人並んだ笑顔の写真
一人ただ黙って飲むコーヒー

訪れた秋の暮らし
凍える冬を予感させる秋の暮らし

まだ見えない春
いつまでも見えない春

ただ沈みゆく太陽
沈みゆく僕の心

どこまでも遠い空
小さくかすむ手の届かない雲
冷たく ただ冷たく吹く風
心の切り口にまだ流れている血の涙
ただ黙って耐える今


自由詩 「秋の訪れ」 Copyright 広川 孝治 2008-10-03 00:03:57
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