赤児と緑児
木屋 亞万

首の長い扇風機を買った
赤い羽根を気に入った
風に乗る、生まれたての
プラスチックの臭い
わくわくと吹く風
私はその扇風機を
赤児と名付けた

夏の夜、
仕事机で読書する
私の横で回り
ベッドで眠る
私を見守って回り
静かに風を送り続けた

夏が終わり
扇風機を分解し
押し入れにしまう前に
雑巾で汚れを
拭き取っていたら
赤い羽根を拭いたとき
塗装が綺麗にとれて
緑の葉っぱがでてきた

黄緑の葉脈が
緑の光沢を引き立たせて
これはこれでまた、良い
私は赤児から緑児に
扇風機を改名することにして
せっかくだからそのまま
部屋に置いておくことにした

10月の終わりから
11月にかけて
羽根がまた赤く
色づき始めた
その横で僕は
読んでいた本を置き
一遍の詩を書き起こした

真っ赤っかに笑う赤児は
いつの間にやら緑児になって
青みをどんどん増していく
青年と呼ばれる頃に
芯から色を変えるような
鼓動に出会い、高揚する心
と、地に落ちるほどの苦しみ
恋をするときに人は
再び赤児になるのだけれど
生まれたときの赤とは、
違う赤だ
そしてまた、
緑になり青になり
赤くなるときを待つ
赤は僕らを死ぬほど苦しめ
生まれたときの迫力を
ふつふつと思い出させる
赤児と緑児を繰り返して
僕らは何度も成長をする



赤児と緑児が家に来て
部屋の空気がおいしくなった気がする
それに加えて赤児の首も少しずつ
伸びている気がする
相変わらずなのは風に乗る
生まれたてのプラスチックの香り
私の夏の風物詩だ


自由詩 赤児と緑児 Copyright 木屋 亞万 2008-10-02 23:38:09
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