愛読者、書
きりえしふみ

 仮面をした、まま 僕らは二人
 キスした 抱き合った
 仮面越しに 互いの熱、を感じながら
 も 指先の感触一つ
 探り当てることが出来ない 見つけられない
 悲しい程 隔てられた
 叫びたい程 隔たったところ
 で 僕らは
 互いに 互いを認識せぬまま 出来ないまま
 恋した 互い、に
 結び付けられてしまった
 互いの握られた手のひらの中 閉じ込められてしまった
 好き好んで

 『ほうら 君たち こんな感じに 結ばれていますよ』

 確かめようにも 触れられない
 不確かな 未知数の
 見えない 見張りを立てておけもしない!
 絆という結び目に 僕ら
 二人のハート
 を 重ね合わせた
 二人のハート
 の 片割れに自分の 換えの利かない
 片割れのハートを 結んで寄越した
 触れられないものを

 『言葉を尽くして!』
 でしか 認識出来ない
 読み返すこと
 でしか 味わえない
 そんな小説の中の恋を 僕らは
 互い、に

 仮面越しに僕らは 恋した
 互いの仮面の中で 互いの名を呼んでみても
 自分の声、しか
 自分の熱だけ、しか
 『返ってこない!』
 という 怖れの中で ただ
 『好き!』と

 嘆きと 不信の最中にあって
 それでも僕ら
 芽吹いた想い 小さな恋を
 花、開かせようと

 『好き』を なぞった
 嘘付きになるものと 全く別のものとは言い難い 同じ唇で

 指先、さえもが 互いを互い、と
 認識出来ない 感知出来ない
 隔てられた場所で 僕ら
 地球の裏側と表 昼と夜とに隔てられて
 そのまま 僕ら
 互いに互いの名を呼んでみた
 恋人、と
 名付けてみた
 (ホントの名前も知らないような僕ら だったから)

 唇に唇をあてがうように
 太陽を前に深く頭を 地面に垂れるような
 そのような 敬虔な心持ちで
 僕らは互いに 視線を互いの紙面へ……

 (c) shifumi kirye 2008/09/28


自由詩 愛読者、書 Copyright きりえしふみ 2008-09-29 05:25:29
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