君に好きと告げるのにあたしは文字しか
きりえしふみ

 君に好きと告げるのに あたしは言葉しか持ち得なかった
 柔らかい口付けもない 抱擁も出来ない
 体を持たない 文字である あたしには
 素足でタタタッと 駆け抜ける 白い紙上を
 “此処”から 逃れられない 一歩たりとも
 “そちら側”に行けない!
 って 知り得ていて あたし

 (怖いものなど もう ないの?)

 丸まってみた 無防備に 散らばってみた
 白い紙切れの上 血を通わせてみたい!
 と 挑んだ
 縺れた言葉を解こうと 躍起になった
 文字に呼吸と鼓動を移植しよう! と

 “此処”から 浮き出て
 君の指先 触れたりできない のに
 “此処”から 浮き出て
 口付け一つ……送ること
 君の怖いもの から 君の震える背中を
 さすることも
 身を呈して 君のこと
 守ることさえ 叶わないのに

 たった一つきりの行動に 適わぬ重み……あたし
 数千行の詩歌が
 ぽつん ぽつんと 白い紙面で

 (まるで 離島)

 点在しながら 君に送る 『好き』
 君へ向かって 歩き出しては 辿り着けずに
 足踏みしている 一冊の本の中
 それ……あたし 散らばる文字
 点在する……一丸になり得ぬ 白い紙の孤児
 それがあたし

 あたしは
 人になりたい 人魚のような心持ちで
 白い波間で きらっきらっと
 微笑み返す一文の文字
 アポロの君の 優しい瞳に照らされて

 (後どれだけ?)

 きらっきらっと輝いたら
 気持ちを縦に走らせたら 並べてみた なら
 君の心に辿り着ける?
 口付け一つ 眼差し一つも 送れない
 この場所で

  ……君に会える?……君はいますか?

 (c) shifumi kirye 2008/09/29


自由詩 君に好きと告げるのにあたしは文字しか Copyright きりえしふみ 2008-09-29 04:51:44
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