せんそうのこと
くま出没

もうすぐ、お祖母ちゃんの一周忌です。
あのとき、お祖母ちゃんに一年後に、せいちょうして帰ってくるからね、そういって山形を発ったのに、ぜんぜんせいちょうしていません。
だから、あと1ヶ月の間に、お祖母ちゃんにいちばん、聞きたかったことを、自分で、調べます。
それは、せんそうのことです。



私にはもう、お爺ちゃん、お祖母ちゃんと呼べるひとがいません。
お爺ちゃんはどちらも、親戚の間であったって、もう、生まれた頃には、他界していました。
聞けば、父方のお爺ちゃんは海軍のお偉いさんで、そのせいで戦後、公職に就けなくて、ずいぶん、苦労したらしい。お父さんは、長男として、それを支えた。お父さんは愚痴を言いません。でもその分、エゴイストだと思います。でも、もうお母さんに優しいからいいんです。父は自分の人生をちゃんと、背負っています。とてもすごいことだと思います。父を、尊敬しています。私は、父似だと思います。エゴイストです。

母は、聞けば随分裕福だったらしい。父と真逆の生活だった。母は、私を生む前から、せいしんを壊していました。でも、りっぱに、りっぱにひとりで生きました。とってもすごいことで今の私には、とても真似できません。母は、本物の賢者です。でも、だらしなく自分の人生をだらり、と私に流します。それは、母親として、いけないことでした。でも、それももう大丈夫です。私がちゃんと、「いけないよ」って言えるようになったから。
だから尊敬、とはちょっと違うところにいます。傍に居るひと、です。それで、いいんです。もしかしたら、女とはそういう生き物なのかもしれない。でも、私はそうなりたくありません。優しさ、とか母性本能と表裏で在るものなんだと思います。だから、私に母性はありません。

一周忌に私が行くとなったら、またひどい戯言を、私は言われるかもしれません。
でも、全部、受け流します。
だって、あのひとたちが心配していることって、つまり、私の中ではぜんぜん心配の種なんかじゃないからです。だからさらり、と言ってやってのけるのです。

だって、私はお祖母ちゃんに、会いに行くんだからね。

お祖母ちゃんにやくそくしたことを、私は守れないかもしれないし、守れるように、なるのかもしれない。
でも、今のところ、あんまり、気持ちはありません。
でもそれは、山形のひとたちっていわゆる田舎色が濃いから、のことだけだと思う。
東京は随分、自由ですから。
私は、こっち育ちですから。
そういうところが生意気に写るんだろうけど、でもそれが東京色じゃなく、自分本位の意志だってちゃんと言うつもり。
あんなひとたちに従順にしていられない。
つまらないことだと思う。つまらなすぎるよ、あなたたちが囚われていることって。

私はちゃんとお母さんを守りたいからついてゆくんだ。
あのひどいおばちゃん(ゲーッ、血が繋がってなくてほんとうに良かった。)からね。
反抗心じゃないよ。そんなものはとっくに消えているよ。
優しさを右手に、左手に反骨心をね、持ってゆくんだ!



わたしは、お祖母ちゃんに、せんそうのことを、聞きに行きます。
それだけです。
大切なことは、それだけなのです。

おばあちゃん、ちゃんと、聞かせて?
つらい苦しいことを伝承しないで逝っちゃうことは、罪だと思います。
特にせんそうのことは。
甘くみて、今の若者は、いじめとか、そういうせんそうを、しています。
おばあちゃん、聞きに行くよ。
待っててね。





私はリセットしたいとき、母より早く起きて仏壇にお供えに行く。
お線香をあげて、はなしかける。
誰にもきこえていないけど、私にはちゃんと、還って来る。
予知能力も、きっとこういうところから、来たんだと思う。
予知能力はちょっと、持っているのが怖いけど、あんまり役に立っていないから、きっと大丈夫。

やっぱり、わたしは行かないほうがいい気がしてきた。
でも、ほら。ここにお仏壇があるから、その日はお祖母ちゃんに聞きに行くよ。
覚悟しておけ。
明日から毎日、お供えに行くことを今日、決めた。
もう、おじいちゃんとおばあちゃんな年齢の父と母を大事にしたい。
従順は、手にしなければならないのですか?
私は何もしていないのに。
私は、何もしないのに。

あのひとたちは勝手にする。
そこがおかしい。
おかしなひとたちとは、距離をとるのが私のする術かもしれない。
でも父は、母を守らないから。
私が、どんなずる(従順)をしたって、守らなければ。
母を守るためなら、私、どんな阿呆にだって、なってみせるよ。
本当の私は、おばあちゃんだけ知ってくれれば、いいんだ。
だから、そうなんだ。
母は傷ついたら、自分で、ちゃんと言えばいい。でもあのひとは冷静になれないから。
でもそんな傷も受けてくればいいのかも。
自分の過ちは、自分で受け入れるべきだよね?

そうしたら、それは私も同じことなのかな?

戦争の話をエサに、私はあのひとたちとコミュ二ケイションを、図りに行こうと思う。
あのひとたちが母を、私を傷つけようとしたら、それはせんそうです。
カラオケはバッチグーです。
だからオールオーケーなんです、実のところね。ほんとうは、そうじゃない、それをちゃんと片付けなければ、自分の中で。片付かなかったら行かないほうがいい証。

おばあちゃん、あなたとほんとうの話をしたことが、私には、一度もなかった。




散文(批評随筆小説等) せんそうのこと Copyright くま出没 2008-09-17 16:12:19
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