濡れそぼつ
こうや

緑陰に目をこらしても
あるのはハンドメイドみたいな葉と
縫いかけの葉脈だった

ぼさぼさポニーテールの女子高生が
自転車で脇を通りすぎた
うなじからラム酒のような香りが
ひとつの束となり鼻孔に届いた

湿気とないまぜになって
迂闊にもクラクラとした
セブンティーンは不思議だ
初夏の憂いだった

義弟がわたしの腕を引いた
早く帰ろうと言う
君の手は
透けてしまいそうに冷たかった

たくさんの表札に囲まれた道を
抜けてきたはずなのに
ひとつも名前を思い出せなかった
帰り道がわからなくなった

梅雨のせいで
両目がしとどに濡れた
もう当分のあいだ
泣かなくてすむだろう



自由詩 濡れそぼつ Copyright こうや 2008-09-17 10:22:14
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