夜の手宮線
ヨルノテガム




この街は夜が早いので八時九時にはもう店は閉まりきる
昼のにぎやかな通りは明るい街灯を残し
ひっそり寝静まってしまうのだった
カップルの散策も終わり、客足もドンチャン騒ぎもなく
波のない運河に 街が染まっていくように
呼吸は静まり返る

秋の虫が線路跡となった手宮線沿いの公園に息吹を灯らす
テレビ音やBGMの途切れた場所、車の往来を遮るように
澄んだ僅かな風と鳴き虫は夜を詠う
走らなくなった電車の面影が街の中心を横切っているのは
遊びや隙間を思わせる
気候のよい夜はいつまでも
夜のベンチ、
夜の水飲み場、
夜のすべり台
は明かりに照らされ浮かび
雑草の生え覆った線路の上を
架空の電車が走り過ぎるのを待っていられた
夜のマンションは巨大な宇宙船の影を空に輪郭残し
線路を見下ろしていた
形だけとなった踏切をあとに線路は歩み休むために伸びている
深夜を随分と回ったと思ったがまだ十二時前だった

鳴き虫も眠ってしまう

最終電車を歩いて帰る







(手宮線跡地 from 1880 to 1985)





自由詩 夜の手宮線 Copyright ヨルノテガム 2008-09-10 20:56:48
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