今回紹介するのはAWC秋田ポエトリーリーディングの世話人でもある、鈴木いく子さんの詩集『空気で伝えて2008』です。
これまで彼女が自作されてきた本や、秋田県でよく読まれている新聞「秋田魁新報」に掲載された詩で構成されています。
この詩集の凄いところは、全部で42編ある詩の一つ一つに家族という芯がはっきりと通っているところです。
理由としては詩の書き手としての成長過程がを考えました。
三人の子を持つ親としての歴史が長いこと。そして、詩を発表している媒体が新聞という場所であることです。
新聞という媒体の読者を想定して書いている詩なので、読みやすい詩が多く集められています。
例えば「ヤツデ」は夏の緑あふれるヤツデの詩。
普段は秋の紅葉しか見ないヤツデの瑞々しさが眼に見えます。
おいでおいでをしている
風がそよいでいる
手の形がたくさん
にぎやかな木だ一本で
たくさんの笑顔つけて
まるで 学校のようだ
ひとつの社会のようだ
(「ヤツデ」より)
家族を色濃く思わせるとしては、私は「くつした」が大好きです。
これはは家に落ちている靴下を描いた作品。
玄関や、テーブル、風呂場に落ちている靴下を猫みたいだという鈴木さんの目は優しいだけではなく、スピード感もこめられています。
手はつかわなくても脱げる
足同士で脱げるから
手なんかつかわなくても脱げる
急いで脱げる
猫みたいにくるくる丸まって
猫の土のついた足みたいな
靴下
(「くつ下」より)
他にも幼くしてお兄さんになってしまた長男を「外国の映画に出てくるようなお母さん/太ったお母さんが大きな息子をだきしめるシーン」のように抱きしめたいという「お兄ちゃんだから・・・」もすごい暖かい詩ですし、ひさしぶりに帰った実家での光景を描いた「淡き幻は守られて」のお母さんとの会話が切羽詰っていくさまが、説明のように書くことでしか言い切れない緊張が魅力的です。
質問の一つ一つに答えていくと
さらにその先の質問に発展していき
ゆっくり落ち着くどころか
焦らせる請求差で
口の中のごちそうも
噛むヒマがなく入ったきり
(「淡き幻は守られて」より)
はっきり言うと、家族のいないモリマサ公さんの詩を想像することができても、家族のいない鈴木さんの詩が考えつきません。とても暖かい詩集です。
もっともこれは、私が独身だったころのモリマサ公さんを知っているということ。
また、使われている単語の種類がモリマサ公さんの方が多いということも割り引かないといけないとのですが。
鈴木さんは現代詩フォーラムでねこじゃらしという名前で参加されています。
http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=804
作品もたくさん投稿されています
『空気で伝えて2008』は非売品の詩集とのことなので、興味を持ってくださったら、鈴木さんに問い合わせてください。
表紙は娘さんのものだということ。個人的にはもっと詩集の中でフィーチャーしてしまえばよかったのにと思っています。
彼女は自作製本についてかなりのボリュームの文章をブログ「ねこじゃらしの部屋」に書いていらっしゃるっていて、そちらの方も魅力的です。
http://kaatyann.exblog.jp/