長い雨季
リーフレイン

機を織る音は雨の音に似ている
人の心臓が脈打つ期待と怯えが
まったき雫になって林の上に降り注ぐ
神が御座においでになる

  長い雨季がやってきた

月の半分は水がついてしまうこの付近の家々は、船をもっていた
石垣を高く組み上げ、階段を登って母屋がある
母屋の外壁にはりつくように木製の船がある
艪の船で、船尾は四角く、オールよりはるかに長い艪をななめに取り付ける
みな6歳になると半円を描くように動かす艪の漕ぎ方を練習する
艪は腕力がほとんどいらないので、小さい子でも漕げた

雨のあと、鏡のようになった水面にはいくつもの船が浮かぶ
艪は水路の上だけで使い、浅いところでは突付き棒で押す
遠くへいくにはもっと推進力のある定期便の船着き場へ、
近場へは直に乗り合わせて渡る

  蓮根の沼が広がる  葦の沼が広がる
  女たちが葦を叩いている

曲がり角にあったイトウには よろずのものが打ち寄せられてしまった
動かなくなった車や水没死体もぼつぼつと打ち寄せられ、
打ち寄せられするうちにとうとうイトウの家族もその一員になってしまった 
イトウという名前になったそこは
こんもりと流木やらゴミやらが集まる集積島になっていて、
時折 駐在さんが調べに回る。

  石垣の下に石垣を積む

水はすべてを均一にする
水は土に隠された秘密をあかるみにだしてしまった
ぽっかりと浮いた満月と子供の骨が遊んでいる

  2のつく日にやってくるのは汲み取り船だ

肥やすことができない土地は やせていく
雨季と乾季のめりはりのない土地では
すべてが海にもどっていってしまう
男たちも海へゆく こどもたちも海にゆくのだろう 女たちは

  女たちには海がある 

 





自由詩 長い雨季 Copyright リーフレイン 2008-09-04 13:27:55
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