入浴
小川 葉

 
風呂の戸を開けると
いつかの僕が
髪を洗ってる

背中を洗ってあげると
ありがとう
そう言って
妻がしてくれてると思ってる

湯船には
いつかの祖母が入ってる
髪を洗う僕にも
その背中を洗う僕にも気づかずに
ただ湯船の中で
じっと目を瞑ってる

風呂の戸を閉めると
いつかの僕にとてもよく似た
赤い体の父がいる
ビールでも飲んだのか
赤ん坊のように
小さな体で

僕は風呂の中で
家族とは何かについて考える
二階の部屋から
妹の声が聞こえると
生まれた人だけが
家族であることがわかる

風呂の戸を開けて
母が心配そうに僕を見てる
ちゃんと生まれたのかどうか
確かめているように
誰もが息をしてる
 


自由詩 入浴 Copyright 小川 葉 2008-09-03 00:22:55
notebook Home 戻る