風切羽
nonya


ハシブトガラスのジョージが死んだ

浄瑠璃町の舗道の上に
骨の折れたこうもり傘みたいに
貼りついていた

アオサギのジミーが言った

南の島のまがいものの空に焦がれて
旅行社の馬鹿でっかい看板に
ダイブしちまったんじゃないの?
空の色なんて腹の足しにもならないのに
まったく呆れるほど青くて
シャレにもなんないよなあ

カワウのジェフが言った

そう言えばしがらみ横丁の路地裏を
千鳥足で歩いていたような気もする
焼鳥屋の残飯でも漁っていたんだろうか?
共食いは愚か者の行為でしかない
哀しみが醗酵しすぎて
とてつもない毒になるのだ

キジバトのエリックが言った

最近可愛い手乗りカラスがいるって
ネタ切れのTV局が来てたみてえだけど
いい気になってたんじゃねえの?
たぶん合法的な飛び道具で
後ろからズドーンってやつさ
人間ってのはたいした理由もなく
命を奪えるケダモノだからね

なぜジョージが死んだのか
理由なんて何でも良かった

ジョージは俺の相棒だったから
切っても切れない腐れ縁だったから

どこもかしこも痛くて
あまりにも痛すぎて
どうにもこうにもいたたまれなくて
俺は三河屋書店の屋上から羽ばたいたんだ

西の空に大きな弧を描きながら
何度も何度も旋回すると
空の下っ腹が破れて
真っ赤なはらわたが街を染めた

争うために生きるんじゃない
貪るために生きるんじゃない
嘲るために生きるんじゃない
生き永らえるために生きるんじゃない

ジョージの独り言を噛み締めながら
何度も何度も旋回すると
黄昏の皮膚が削れて
同心円の闇が街に積もった

翼は何のためについているんだ?
風切羽の軋みがジョージの声に思えた

俺はやみくもに風を切った
俺はみなぎるように風を切った
俺はほとばしるように風を切った
俺はいとおしむように風を切った

そのうち意識がすっ飛んで
ボーリング場のゴミ置き場に
不様に叩きつけられても

とりあえず俺は生きた
十二分に生きた
圧倒的に生きた

ジョージと風と
風切羽とともに


自由詩 風切羽 Copyright nonya 2008-08-29 18:53:25
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