未来がまだ懐かしかった頃
小川 葉

 
はじめて
家族旅行に行った
夜の宿で
そこは二楽荘というんだけれども
楽しいことは
一つや二つどころではなく
三つも四つも
心配など
なにもなかったから
いくらでも夢中にはしゃいで
はしゃいで
家族で笑ってばかりいた

今はない
あまり
おいしくなかったおさしみや
少し傾いた部屋
どきどきしていた
未来が
まだ懐かしかった頃


妹が
窓から見える
サントリーのビルボードを
サントビール
サントビールと言って
指差して
見ていた

動物園や
遊園地に
はじめて行った

次はどこに行くの
と言ってるうちに
家に着いた

また行こうね
と言って
言ってばかりで
時は過ぎていった

あの小さな妹は嫁ぎ
あの妹と
同じ年頃の
僕の息子が
サガヤキュウビン
サガヤキュウビン
と言って
時を未来へ
配達してる

さがしても
今はどこにもない
未来がまだ懐かしかった
あの頃へ
 


自由詩 未来がまだ懐かしかった頃 Copyright 小川 葉 2008-08-28 21:13:54
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