橋の上の人
おるふぇ

感情なら溢れていい
思う存分に枯れるまで
泣いてもいい
もしも年をとって
今日という日を
思い出す時
それが青春のように
輝いていればいい

願いを胸に湛え
星空から照らされる
細い小さな道をまた一歩
転ばぬ先の杖も持たず
無防備な裸の姿で歩く
暗闇に同化する狼のように
天へ静かに寄り添う野性の象のように
沼地に身を沈め必要最小限の獲物のみを採取する鰐のように
生きる佇まいは
死の影を捕らえ撃ち抜くだろう

汚らしい身なりの坊さんが
托鉢をして人様からの恵みに感謝を示す慎ましさ
絶え絶えに流れる幸せの河は
愛する人の胸に注がれ
幸せと幸せを繋ぐ橋として
はじめて存在するかのような
わたしになりたい
ぼろきれであっても
男にできるのは
女を守ることだけだと
粗末にしていた米粒ですら
訴え掛けている
不幸の谷を渡るなら
わたしが橋になってみせよう

心にまとわりつく分厚いベール
見えなくなる自分自身
血の重さ
苦しみの紅さ
幻の鮮やかさ
記憶との距離
ナイフの固さと鋭さ
それを見ている自分
近くにはいない自分
誰が自分なのか
言葉を持たない自分
永遠に自分なのか
疑問と定理
滅び
分離症
遊びましょう

気怠い夏の午後が終わる
長編小説一冊分の徒労という名のコーヒーを飲む
苦みが食道を通り抜けるスピードと同じくらいのスピードで
この夏の呼吸は終わる
もうずっと秋が続いている多分あなたを殺すまでという名のシュガーを混ぜた
よくある一発ギャグが消費され飽きられるくらいに
甘い涙の味わいと喉越しだった
それをあなたに飲ませたら
短い幻のようなこのショートコントは
すぐに忘れてもらえる

もうずっと橋が続いている
河が終わるまで
落ちるのが怖いと
ここにいるわたしの腕や背中を
あなたは渡り歩く
この河に落ちるなら
ずっと二人だよね
曖昧な微笑みも
噛み殺した叫びも
融通の利かない現実が
消してくれるよね
そうならいいけど
まだ橋は続いている
河の中で橋は続いている

辻褄を合わせるように
詩を書いている
この行為を嫌いになれずにいる人物は
小説の中の人物を
掌の上で転がしたり
指で摘んだり
もう何回も繰り返している
気づきなさい
もうそれきり声らしい声は
出なくなりました
自分の辻褄と
他人の辻褄と
噛み合わなくなるのは
もう懲りてしまったから


自由詩 橋の上の人 Copyright おるふぇ 2008-08-28 19:50:33
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