夏がただ過ぎていく
松本 卓也

本当にいつの間にか
風に冷たさが混じっていた
またしても気付かぬうちに
季節を越えようとしている

組合わせた言葉に弄ばれながら
少しずつ確かに空が褪せていく
本当についこの間に
新しいタオルを買ったばかりなのに

白髪がまた増えただとか
髭がまた濃くなったとか
右肩の後ろが痛いとか

繰り返したいつもに隠れて
徐々にすり減らしていく
かつて夢と名付けた残像は
食い潰すほど残っているのだろうか

帰宅して摂る水分の
三割はアルコールで
日付が変わり始めた頃に
Tシャツが裏返しなことに気づく

もう自嘲する気力さえなく
布団が与えてくれる幸せだけを
身体が求めていることを知る

このまま埋もれていくのだろうか
このまま廃れていくのだろうか
いつから忘れているのだろうか
何を縋っていたのだろうか

分からないまま綴り
辿れぬまま叫び
掻き毟る胸の痛みさえ遠く
ただおどけて笑うだけしかなくて

泣きたいけれど
鳴きたくはない

認めてしまえば多分
幾許かだけ残る意地さえも
消えてしまいそうだから

あと少しだけ
もう少しだけ


自由詩 夏がただ過ぎていく Copyright 松本 卓也 2008-08-26 00:02:48
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