夏の終わり
吉田ぐんじょう
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夜
飲みさしのコーヒーの中に
砕けた夏を発見した
掬い上げようとしたら
逃げるみたいに砕けて沈み
底の方で銀色に光っている
人差指でかき回すと
跡形もなく溶けてしまった
ベランダに出て
夏の溶けた後のコーヒーを飲む
風と植物と雨の味がした
・
八月も終わりに近づくと
薄荷飴をすべて舐めてしまわなければ
という一種の強迫観念に襲われる
寒くなってから薄荷飴を舐めても
さみしくなるばかりであるから
部屋じゅう探すと
靴の中や戸棚の裏や部屋の隅なんかに
夥しく落ちている
それらを拾って口に入れる
薄荷飴の楕円形は足跡に似ている
もしかしたら夏の間じゅう
何か透明なものがこの家で
遊びまわっていたのではないかと思う
・
夜歩きをするときは棒を持つことにしている
路上を歩くと必ずどこかに
西瓜が置いてあるからだ
周囲に誰も居なくとも
わたしはきちんと棒を軸にして十回まわり
はんかちで目を覆ってからそれを割る
そして歪な破片を食べる
あまり静かなので
まるで人を食べているような気持ちにもなる
街灯の下に浮かび上がる真赤な果肉は
グロテスクだが不思議と綺麗である
きょうはすいかわりをしました
なつのおもいでができました
と呟いて少し笑う
見上げると満天の星空だった
どこか遠くで
風鈴が りいん と鳴ったような気がした