光の差す方へ
yangjah



「太陽のように明るく光る子になりますように」
三姉妹の名前は
名付けられる

三姉妹は
保育園だけ私立に通う
それは学費が安くなったかららしい

白い肌で明るい髪のイエスの像に
黄色い肌で黒い髪の子どもたちが向かう
キリスト教の聖書のことばを口にし
賛美歌を歌って過ごす

「光の子らしく歩きなさい」

毎年恒例のクリスマスイベント
年長組の劇は
キリスト生誕のものがたり
わたしと次女は天使役
末っ子はなんとマリア役

主役のイエスはちっちゃな人形
生きた主役はマリア様
イエスを抱いてただそこにいるだけで

「クラスでいちばんかわいいアイドル女子がなるはずやのになんでやねん」
家族につっこまれる三女
「みっちゃん、マリア様やってくれへん?」
先生に頼まれて断れなかった三女
大人にもまれるクリスマス


この暑い夏に大きな戦争は終わった
日本では終戦記念日
韓国ではクヮンボクチョル(光復節)

がっくりと肩を落とす日本人
自由になり歌い踊る朝鮮人

わたしは日本で生まれ育ったけれど
戦争に負けた日本人の感覚では
8月15日を迎えることはできない

わたしは日本で生まれ育ったから
生きる光が戻ってきた朝鮮人の感覚では
8月15日を迎えることはできない

光が戻ってきても
またソ連とアメリカにもてあそばれて
この地球上で今も南北に分かれているのは
ただひとつの場所

光と影はいたるところにある

うちのハンマはもうその時には
日本で暮らしていた
戦後35年ほどたってやっと
チェヂュ島の親戚に再会する
そして今も日本で暮らしつづける
暑い部屋で
「韓国に行きたい」と言う
ハンマのいう韓国は
朝鮮半島ではなくチェヂュ島


テレビでは北京オリンピックの競技が
流れ続ける

スポーツで戦う
戦争で戦う
まったく違うはずなのに
子どもの頃から
わたしにはまったく興味が湧かない

マラソンのテレビ観戦が大好きなハンマ
もちろん部屋のテレビはいつもオリンピック
「いちばん勝ったらうれしいのは韓国」
というけれど、やっぱり日本の選手も応援している
国よりも何よりもいちばんに
人を大切にしてきた人


「帯祝い」という
日本の風習をはじめて知る
白くて長い腹帯をぐるぐると
赤ちゃんの宿ったおなかに巻き付けて
安産を願う

来年新春に
三女に子どもが生まれる
どちらの家族にも初孫が生まれる

三女は何度も
「腹祝い」と口がすべる

ふたりが式を挙げた日には
春に向かう雨が降っていた
平安神宮は
立秋を過ぎてもまだ暑い
あの日の天気と足して二で割れば
ちょうどいいねと笑う

本堂でのご祈祷は
鮮やかな朱の舞台に
白と水色の装束が映える
この世とは思えない空間
遠くから響く太鼓の音
三人の頭に向けて鳴る鈴の音
ちがう
もうすでに四人

お神酒をいただいて
本堂を去ろうとすると
たくさんの中国人観光客が
迎えてくれる


ここはいったいどこなんだろう


日本は東アジアで
日本はアジアで
日本は世界で
日本は地球で
日本は宇宙で
どこでもあって
どこでもない

だからもう
どこにいてもいい

だから
もうこの地球上で
自分の居場所なんて
探す必要がない

ただ
光の差す方へ歩いていこう


2008年葉月


自由詩 光の差す方へ Copyright yangjah 2008-08-21 15:45:05
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