祖母へのお手紙                                           ...
里欣


祖母へのお手紙                                                                                      


                             
「はと麦茶が届いた?解毒できるよ」
毎週月曜日、中国山東の祖父と?健康談義    
ばあちゃんの話があまり出ないけど
ばあちゃんがかつて来た
果実と日陰を、気前よく与えに
国内外戦争と文化大革命の中で
いつも「いま食慾がない」といい
六人の子ども達に食べさせてきた
小鳥たちが巣立ち、忙しくなったが
ばあちゃんは春の香椿の葉っぱを                         きれいに水洗いし、食卓一杯の深緑を広げ
子どもたち分の塩漬けを作った
錦を飾れないわたしに「夏に待っているよ」と言ったが
ばあちゃんが潔く離れた
まだばあちゃんの声を聞きたい
まだこの陽気な機知に満ちた頬に
キスしたいと悲しむわたしの手へ
眠った祖母の右手から伝わってきた
ぎゅっと。集中された何かの念力。
腕相撲をしたこの蒼古な青筋はかつて
小さなわたしを抱え
夕日の岸で川を眺め、川の音を聞いた

その日、ばあちゃんは
樹の形を諦め、逗留もせず
未曽有の速度でトンネルを乗り越え
拘禁、束縛、重荷、痛みを打ち砕いた
ばあちゃんも川だ
貝がらの沈黙と
美しい記憶報われざる愛の熱度を
小松たちに残し
しなやかな雲と透明な季節にも
贈った

帰りにわたしは
冷蔵庫にあったばあちゃんの香椿も
おじの作った東北干し椎茸チキンも
夢、傾聴、行動の意味とともに
かみ砕こうとした                                                                              (2007年8(?)月号現代詩手帖選外佳作)

                                                                                                         


自由詩 祖母へのお手紙                                           ... Copyright 里欣 2008-08-18 17:23:43
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